🧩複雑性PTSD・愛着障害・アダルトチルドレンの違いと重なり
複雑性PTSDとは何か。愛着障害やアダルトチルドレンとの違いを、精神科看護師の視点でやさしく解説していきます。
この記事はこんな方に向けて書いています。
- 自分の生きづらさに名前をつけたい
- 複雑性PTSD・愛着障害・アダルトチルドレンの違いが分からなくなった
- 「自分が弱いだけなのでは」と責めてしまう

複雑性PTSD、愛着障害、AC……いろいろ調べるほど、自分がどれなのか分からなくなって余計に不安になります。

大丈夫ですよ。その混乱は、あなたが自分を助けようと必死に探究してきた証拠です。精神科看護師の視点から、この3つの『地図』を一緒に整理していきましょう。
複雑性PTSD・愛着障害・アダルトチルドレンの図
| 項目 | 複雑性PTSD | 愛着障害 | アダルトチルドレン |
| 主な焦点 | 脳と神経の過敏さ | 人との絆・信頼感 | 家族内での役割 |
| 感覚 | 「体がまだ戦っている」 | 「人を信じられない」 | 「自分を演じてしまう」 |
| アプローチ | 神経系をなだめる | 安全基地を作る | 本音の自分を取り戻す |
🧠複雑性PTSD(CPTSD)とは―「脳と神経」の防衛反応
複雑性PTSDを一言で表すと、「戦場ではない場所でも、脳が戦場モードのまま固定されてしまった状態」です。
なぜ「複雑」なのか
WHOが定めた複雑性PTSDの診断基準について
世界保健機関(WHO)の最新の診断基準「ICD-11」では、複雑性PTSDは「性格の問題」ではなく、以下の3つの機能障害を伴うものと定義されています。(ICD-11公式ページ)
- 感情調節の困難: 感情が爆発したり、逆に何も感じなくなったりする。
- 否定的な自己概念: 自分を価値のない、壊れた存在だと強く感じる。
- 対人関係の障害: 人との距離感がつかめず、親密な関係を維持するのが難しい。
これは、長期的なトラウマによって、脳の感情をコントロールするシステムが「変化」してしまった結果だと専門書でも広く説かれています。
通常のPTSDが一過性の衝撃(事故や災害)によるものに対し、複雑性PTSDは「逃げ場のない場所で、長期間、繰り返し」受けた傷によって起こります。
- 家庭内での心理的・身体的虐待
- ネグレクト(無視)
- 学校での長期的なイジメなど、「今日が終わっても、明日もまた逃げられない」という絶望的な環境が原因となります。
特徴的な症状:感情的フラッシュバック
複雑性PTSDの最大の特徴は、映像としての記憶だけでなく、当時の「感情」だけが突然襲ってくる「感情的フラッシュバック」です。
何でもない瞬間に、突然「猛烈な孤独感」「消えてしまいたいほどの恥」「言いようのない恐怖」に襲われる。これは性格の問題ではなく、脳の警報装置(扁桃体)が過剰に反応している生理的な現象です。
例:「上司に少し注意されただけで、まるで世界の終わりかのような絶望感や、激しい動悸に襲われる。これは今の出来事ではなく、過去の恐怖が『感情』として再現されている状態です」
トラウマ反応の代表的な考え方として、「4つのF」というものがあります。
「なぜ無意識にこう反応してしまうのか?」をもう少し詳しく知りたい方へ。

夜中に急に胸ががざわざわして苦しくなる…これもフラッシュバックかも?
自分を責めないための「耐性の窓」という考え方
精神科看護の現場で、患者さんに自分の状態を理解してもらうためによくお伝えするのが「耐性の窓(Window of Tolerance)」という考え方です。
文章だけだと分かりにくいので、図で整理してみます。

ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)から見た窓
この「窓」の考え方は、スティーブン・ポージェス博士が提唱した「ポリヴェーガル理論」に基づいています。
私たちの神経には3つのモードがあります。
- 社会的関わり(窓の中): 安心を感じ、笑顔で人と話せる状態。
- 闘争・逃走(窓の上): 敵から逃げるために、心拍を上げ、戦うか逃げるかの状態。
- 凍りつき(窓の下): 命を守るために、死んだふりをして感覚を麻痺させる状態。
セルフケアで「今、ここ」の安全を体に伝えることは、神経を1の「窓の中」へ戻してあげる科学的なアプローチです。
多くの方は、この図を見た瞬間に
「自分はいつも上か下にいる気がする」と感じます。
それは、とても自然な反応です。
通常、人は多少のストレスやショックがあっても、この「窓」の範囲内であれば感情をコントロールできます。しかし、長期間のトラウマを経験し、複雑性PTSDを抱えていると、この窓が非常に狭くなってしまいます。
窓が狭いと、他人から見れば「そんな些細なことで?」と思うような刺激でも、すぐに以下のような極端な状態に放り出されてしまいます。
・過覚醒(パニック、イライラ、過度の警戒心。心臓がバクバクする状態)
・低覚醒(無気力、感情の麻痺、体が鉛のように動かない状態)

「すぐキャパオーバーになる自分はダメだ」と責める必要はありません。
それは性格のせいではなく、あなたの脳がこれまでの過酷な戦いの中で、自分を守るために窓を小さくして警戒を強めているだけなのです。
この「狭くなった窓」の中に自分を戻してあげる具体的な方法を、記事の後半(ステップ2)で詳しくお伝えします。
🤝愛着障害 とは― 人との「つながり」の設計図
愛着障害は、病名というよりも「人との間にどれくらい安心感の橋を架けられるか」という設計図の問題です。
幼少期に作られる「安全基地」
私たちは幼少期、親などの養育者との関わりを通じて「困ったときは助けてもらえる」「人は信頼できる」という安全基地(心のよりどころ)を自分の中に作ります。
この基地が未完成のまま大人になると、対人関係で以下の3つのパターンが出やすくなります。
- 不安型: 相手の顔色を過度に伺い、「嫌われたかも」と常に不安になる。
- 回避型: 誰かと親密になるのが怖く、あえて距離を置いて一人でいようとする。
- 恐れ・回避型(未解決型): 「近づきたいけれど、近づくと傷つくのが怖い」という激しい葛藤に引き裂かれる。
愛着障害を抱える人は、大人になっても「自分はここにいていい」という実感が持てず、常に「居場所のなさ」を感じる傾向があります。
🎭アダルトチルドレン(AC)とは ― 生き抜くための「役割」
アダルトチルドレン(AC)は、診断名ではありません。機能不全家族(アルコール依存、不仲、過干渉など)の中で、子供らしく振る舞うことを許されなかった人たちの「生き方の癖」を指します。
家庭という小さな社会で生き残るために、ACは無意識に以下の「役割(仮面)」を被ります。
- ヒーロー(英雄): 良い成績や成果を出し、家族の誇りになろうとする(完璧主義)。
- スケープゴート(身代わり): 問題を起こして悪者になることで、親の不仲から目を逸らさせる。
- ロスト・ワン(いない子): 存在を消し、手がかからないように静かに過ごす(孤独への耐性)。
- マスコット(道化師): おどけて場を和ませ、家族のピリピリした空気を変えようとする。
- ケアテイカー(世話焼き): 自分の感情を殺して、親の悩みを聞く「親の親」になる。
大人になって、その環境から離れても「仮面」が外せず、自分自身の本当の気持ちが分からなくなってしまうのがACの苦しさの本質です。
実は、ACの役割とトラウマ反応(4つのF)は密接に関わっています。例えば、常に完璧を目指すヒーローは『闘争(Fight)』の変形ですし、自分を消すロスト・ワンは『凍りつき(Freeze)』、顔色を伺うケアテイカーは『迎合(Fawn)』の生存戦略といえます。

人間失格の主人公も、周囲を笑わせて空気を保つマスコット(道化師)タイプ
に重なる部分がありますね。
【専門解説】AC概念のルーツと「機能不全家族」
アダルトチルドレン(AC)という概念は、1970年代にアルコール依存症の家族を支援する中で生まれ、後にジャン・ジャロフらによって体系化されました。
本来、家庭は「安全基地」であるべきですが、その機能が果たせていない「機能不全家族」で育つと、子どもは生き残るために特定の役割(ヒーローや道化師など)を演じざるを得なくなります。 これは、あなたが弱かったからではなく、その環境で生き延びるために「心が賢明に編み出した作戦」であったことが、多くの臨床研究で示されています。
大人になったACが抱える「職場・人間関係での苦悩」
家庭内で身につけた「役割」は、大人になって社会に出ても無意識に繰り返されます。例えば、こんな悩みはありませんか?
・元ヒーロー(英雄):職場で過労死寸前まで働いてしまう。100点以外は0点だと自分を追い込み、他人のミスも許せなくなる。
・元ケアテイカー(世話焼き):機嫌の悪い上司の顔色を過剰に伺い、自分の仕事ではないことまで引き受けて燃え尽きてしまう。
・元ロスト・ワン(いない子):会議や集まりで意見を求められても、存在を消そうとしてしまう。「目立たないこと」が唯一の安全策になっている。
あなたは今でも、「実家の居間で生き延びるための必死な作戦」を、今の職場や家庭で使い続けているのかもしれません。でも、もうそこにはあなたを傷つける「あの頃の脅威」はないのです。少しずつ、古い武器を置いて、自分を休ませる練習をしていきましょう。

私も会議や集まりでは、つい空気を読みすぎてしまいます。
🔗なぜ3つは重なり、混ざり合うのか?
文章だけだと分かりにくいので、図で整理してみます。
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これら3つが重なって見えるのは、実は「一つの根っこ」から繋がっているからです。
| 概念 | 視点 | 例え |
| 愛着障害 | 根っこ(土台) | 「人を信じられるか?」という土壌の問題 |
| 複雑性PTSD | 幹(神経系) | 危険に備える「アラート機能」の過敏さ |
| アダルトチルドレン | 枝葉(振る舞い) | 社会でどう振る舞うかという「役割・癖」 |
愛着障害(根っこ):土壌が不安定で、栄養(安心)が足りない。
複雑性PTSD(幹):嵐(トラウマ)に備えて、常に木全体がガチガチに緊張している。
アダルトチルドレン(枝葉):その環境で折れないように、変な方向に枝を伸ばしてバランスを取っている。

つまり心の状態で表すと…
愛着障害: 「誰を信じていいか分からない」という悲しみ
複雑性PTSD: 「体がまだ戦っている」という苦しみ
アダルトチルドレン: 「こう振る舞わないと居場所がない」という必死さ
【重なる理由】
安心できない家庭環境(愛着の欠如)にいると、心は常に戦場モード(複雑性PTSD)になり、その中で何とか見捨てられないように特定のキャラ(ACの役割)を演じるようになります。
つまり、3つ同時に持っているのは、あなたがそれだけ過酷な環境を「多角的」に生き抜いてきた証なのです。
📝「名前」よりも大切な「今のあなたの取説」
看護の現場で多くの患者さんと接してきて感じるのは、「診断名」に自分を合わせようとして苦しむ人が多いということです。
「私はACだからこうなんだ」と自分を縛るのではなく、今のあなたの「困りごと」に名前をつけてあげましょう。
- 「あ、今フラッシュバックが起きて、体が震えているんだな(CPTSDの反応)」
- 「今は相手に見捨てられるのが怖くて、無理に笑っているんだな(ACのケアテイカー反応)」
- 「本当は甘えたいけど、裏切られるのが怖くて突き放しちゃうんだな(愛着の回避反応)」

このように、自分の反応を「あ、これはあの時の防衛反応が出てきているんだな」と客観的に眺められるようになること。
これが、名前を知ることの本当のメリットです。
複雑性PTSDは「性格」ではなく、生き延びるための知恵

冷たくなったように感じること。 何もかも悲観的に考えてしまうこと。 それらは性格ではなく、 過去を生き抜くために身につけた心の知恵です。
あなたの心は、何度も危険な場面をくぐり抜けながら、
「こうすれば生き残れる」と学習してきました。
その結果が、今の反応として残っているだけなのです。
だから責めなくていい。
それは、あなたが弱かった証拠ではなく、
必死に生きてきた証なのです。
🌱看護師が伝える、回復への3ステップ
回復とは、これらの反応をゼロにすることではなく、「今の自分でも大丈夫」と思える安全な瞬間を増やしていくことです。
ステップ1:安全の確保
まずは「今、ここ」が安全であることを体に教えてあげます。刺激の強いニュースを遮断したり、苦手な人とのLINEをミュートにするなど、物理的な境界線を引くことから始めましょう。
ステップ2:神経系をなだめる
頭で考えるよりも先に、体を整えます。温かい飲み物を飲む、重いブランケットにくるまる、足の裏が地面についている感覚を確認する(グラウンディング)。
これらは、先ほどお伝えした「耐性の窓」からはみ出してしまった状態(過覚醒・低覚醒)から、自分を安全な「窓の範囲内」へと連れ戻してあげる作業です。
「今、敵はいないよ」と神経に伝えて、窓のシャッターをゆっくり開けてあげましょう。
ステップ3:小さな「No」から始める
ACや愛着の課題を持つ人は、自分の気持ちより他人の期待を優先しがちです。まずは「今日のお昼に何を食べたいか」といった小さなことから、自分の本音を拾い上げる練習をしましょう。
今すぐできるセルフケア「バタフライ・ハグ」
頭で考えるのが難しいとき、神経系を直接なだめる方法として「バタフライ・ハグ」が有効です。

- 両手を胸の前で交差させ、左右の肩に手を置きます(蝶のような形)。
- 左右交互に、トントンと優しく、ゆっくりと肩を叩きます。
- 呼吸を整えながら、「大丈夫だよ」「よく頑張ってるね」と自分に声をかけてあげます。
これは左右交互の刺激によって脳のバランスを整え、興奮した神経を落ち着かせる科学的な根拠に基づいた方法です。フラッシュバックや強い不安に襲われたとき、自分を抱きしめるつもりで試してみてください。
【専門解説】「内的ワーキングモデル」の書き換え
心理学者のジョン・ボウルビィは、自分の中に作られた人との関わり方の設計図を「内的ワーキングモデル」と呼びました。
回復とは、過去に壊された設計図を修正していく作業です。一度で直すのは難しいですが、安全な場所で「NO」を言う練習をしたり、セルフケアで自分を慈しむ体験を積み重ねることで、脳の設計図は大人になってからでも新しく書き換えることができる(神経可塑性)ことが証明されています。
よくある質問(Q&A)
Q:診断を受けたほうがいいですか?
A:自分の状態に名前がつくことで安心する面もありますが、診断名という「ラベル」に自分を合わせようとしすぎないことが大切です。まずは「自分が今何に困っているか」に目を向けましょう。
Q:親に謝ってもらう必要はありますか?
A:謝罪があれば救われる部分もありますが、相手が変わるのを待つことは、自分の幸せの鍵を相手に預け続けることにもなります。回復とは、相手がどうあれ「自分を自分で幸せにする力」を取り戻していくプロセスです。
🤍最後に:あなたは弱かったのではなく、強すぎた

複雑性PTSDも、愛着障害も、アダルトチルドレンも。
これらはすべて、あなたが「死なないために、心が編み出した知恵」です。
あなたは壊れているのではありません。
あまりにも過酷な環境に適応しすぎて、そのモードを解除する方法を忘れてしまっただけなのです。
「今まで、私を守ってくれてありがとう」
自分の防衛反応にそう声をかけられるようになったとき、止まっていた時計の針が、ゆっくりと動き始めます。
焦らなくて大丈夫。その一歩を、私は心から応援しています。
主な参考文献: WHO『ICD-11』 / ピート・ウォーカー『複雑性PTSD 生き残ることから生き抜くことへ』 / B・ヴァン・デア・コーク『身体はトラウマを記録する』 ほか
※この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療を行うものではありません。
強い苦しさや生活への支障がある場合は、医療機関や専門家への相談をご検討ください。
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